iPhoneの価格は年々上昇している。その背景には、受託製造している台湾の半導体メーカー「TSMC」の強気の価格設定がある。元経済紙記者の林宏文リン・ホンウェンさんは「TSMCは『価格以外のすべてで競合他社を圧倒する』という戦略を取っている。そうすることで、価格の決定権を手繰り寄せることができる」という――。

※本稿は、林宏文『TSMC 世界を動かすヒミツ』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。

国が違えば生産コストも変わる

価格設定は簡単そうに見えるが、実は非常に複雑な要素がからみ合っているため、いくつかの原則に沿えば決定できるといった単純な話ではない。そこで、これまで述べたTSMCの過去の価格戦略に続き、ここからは一歩進んで、TSMCの価格はどんな原則に基づいて決定されているのか、そしてTSMCにはどんな価格戦略があるのかを掘り下げていきたい。

TSMCの工場にあるロゴ
写真=iStock.com/BING-JHEN HONG
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まず、TSMCの価格設定は複雑なモデルに基づいて算出されており、当然ながらそれは、各国の生産コストと密接に関係している。TSMCは中国、米国、日本に進出しているが、国が違えばその生産コストも変わる。

また、顧客から大口の発注や工場の貸し切りを打診された場合、製造コストとリスクも計算しておく必要がある。たとえばTSMCは2020年、インテルからの大量発注計画に対応するため、わざわざ新竹宝山にインテル専用生産ラインの設置計画を立て、価格モデルも算出した。だが、インテルCEOにパット・ゲルシンガーが就任すると、戦略が変わって発注量が減らされたため、TSMCも新竹宝山への投資額と価格の見直しを強いられてしまった。

TSMCの価格は他社よりも高い

次にTSMCの価格は、先端プロセスも成熟プロセスも競合他社より高く設定されている。先に述べたようにTSMCはリーディングカンパニーとして、競合他社よりも高い良品率と早い納期と手厚いサービスを提供しているため、それに見合うだけのプレミアム価格を設定できるようになっているからだ。

特に7ナノメートル以降の先端プロセスの競合他社はサムスンとインテルしかいない。サムスンはよく値引きして受注をもぎ取っているので、TSMCの提示価格はサムスンよりもかなり高くなっている。